手術前に「口腔ケア」をしてもらっておいたほうがいい理由

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2018年8月31日手術前に「口腔ケア」をしてもらっておいたほうがいい理由

手術後に起きる合併症の中で、肺炎は死亡などにつながりかねない病気として知られている。喫煙者は手術前に禁煙することで合併症の発症リスクを低くすることができ、肺炎などの感染症予防のために口腔細菌を除去し、口腔ケアをしておくことが手術予後のために重要だ。今回、東大の研究グループが大規模なデータから、がんの手術前に口腔ケアをした患者の予後がいいことを示す論文を発表した。

口の中の細菌は手術後の合併症の原因の一つ

寝たきりの高齢者などの肺炎リスクを減らすために口腔ケアが効果的なこと、また手術前に口腔ケアをしておくと肺炎や口腔がんの手術部位の感染を予防できることはよく知られている。

例えば、食道がんの手術後、肺炎にかかる割合は15~32%とされ(※1)、その原因は歯垢に繁殖した細菌と考えられている(※2)。そして、食道がんの手術前に歯垢を除去するなどの口腔ケアをすることで、手術後に肺炎にかかる割合が減ることも事実のようだ(※3、32%→9%)。

がんや肺炎に限らず、消化器官などの外科手術では、口の中の細菌が直接的に患部へ移動したり、炎症を引き起こす反応に間接的に関与すると考えられ、手術前にこうした細菌をできるだけ除去しておくことが合併症予防のために推奨されている。

今回、東京大学の研究グループが、これまで実証的理論的に明らかになっていた手術前の口腔ケアが、がん患者の手術後の肺炎発症率や死亡率をどれくらい減少させるかという効果を、大規模なデータベースを使って検証し、英国の医学雑誌『BJS(British Journal of Surgery)』オンライン版に発表した(※4)。

 使用したデータベースは、厚生労働省のレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)で、日本で行われているほぼ全ての保険診療の請求データを含んでいる。

大規模臨床データを利用した初めての研究

対象としたのは、2012年5月~2015年12月に行われた頭頸部がん、食道がん、胃がん、大腸がん、肺がん、肝臓がんの腫瘍切除・腫瘍摘出手術を受けた患者(50万9179人)で、手術前の歯科医による口腔ケアを受けた患者(8万1632人、16.0%)が手術後に肺炎にかかったか死亡したかを調べた。また、性別や年齢、既往歴などの変数を調整して統計解析にかけたという。

その結果、手術前に口腔ケアを受けた患者群では、肺炎の発症率が3.28%と低く(口腔ケアなし群は3.76%、リスク差-0.48%)、手術後30日以内の死亡率も0.30%と低くなっていた(口腔ケアなし群は0.42%、リスク差-0.12%)ことがわかった。

がんの部位別では、特に食道がんの患者で手術前の口腔ケアの効果が高かった(肺炎発症率のリスク差は口腔ケアあり群でなし群より-2.44%、手術後30日以内の死亡率のリスク差は口腔ケアあり群でなし群より-0.36%)という。

これまで経験的にわかっていた手術前の口腔ケアについて、これだけ大規模な臨床データを使って立証したのは初めてという。手術前の歯科医師による口腔ケアの重要性が、今後さらに広く認知されることになりそうだ。

https://news.yahoo.co.jp/byline/ishidamasahiko/20180828-00094796/

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